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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
『俺は構わないけど、
浩ちゃんが行ってやったほうが……』
《それがさ、
朝までに仕上げないとダメでさ、
まだ終わらないんだ。
正月に休みすぎちゃったよ》
『そっかぁ、そりゃ無理だな。
じゃ俺、行ってくるよ』
《悪い、圭ちゃん、頼む》
電話を切って、渡瀬はデスクの脇に置いた写真立てに目をやった。
初めてカレーを作ったときにスマホで撮った、エプロン姿の早苗が微笑んでいる。
『まったく……』
短いため息が、デスクの上の消しゴムカスを払った。
締切に追われ、事務所に泊まり込んでこなさなければならない仕事があったのは事実だが、すでに仕事のめどはついていて、渡瀬が早苗を迎えに行くことは十分できた。
それをあえて圭司に任せるのには渡瀬なりの理由があった。
大晦日にフリーランス仲間が集まり、港の突堤で初日の出を拝んだあと、倉庫でどんちゃん騒ぎをやった。
最近、圭司に新しい彼女ができたと皆で盛り上がったのだが、その際に渡瀬は、早苗とのことを洋介には打ち明けていた。
洋介はそれを知ったうえで、自分ではなく圭司に電話をよこした。
タクシーを呼んで早苗を放り込んでしまえば済むところを、わざわざ圭司を迎えに来させるのには何かワケがある。
洋介がそうしたのは、早苗が酔いつぶれるまでにもらした、さまざまな心情に配慮したものであろう。
自分も含めた仲間のことを、特に早苗を思ってのことだ。
いま自分が出ていくことで洋介の気づかいを台無しにできない。
人並み以上に義理堅く、メンツを重んじる洋介の人がらが、渡瀬にそう判断させたのだった。
『待つってのは、そういうことだ』
親指の根元でくるりとマーカーを回し、渡瀬は下書きをなぞった。