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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
 
『圭司、
 早苗ちゃんの……』

早苗の頬が腫れていると、洋介は声をひそめて自分の頬を指さした。

『カラ元気見せて、
 本人が頑張るんでな。
 こっちからは何も触れられん』

低い声で、安助がそう言った。
洋介も何があったのかとは訊かず、欲しがるままに酒を注いでやったが、途中でボトルを隠したのだと言った。

『あのほっぺ。
 浩ちゃんが見たら、泣くぜ。
 俺だって頭に血がのぼったよ』

洋介の言葉に圭司は黙ってうなずいた。
撮影現場で早苗と話していた男の風体が浮かび、殺意を抱いた。
そして、洋介が渡瀬ではなく自分に電話してきた理由を悟った。
渡瀬は実直なだけにひとたび温厚の鎧(よろい)を外せば、早苗を殴った相手に何をしでかすかわからない。

『圭司オマエ、心当たりあんのか?
 早苗ちゃん、こうなったの』

『いや、ないよ』

圭司は口をつぐんだ。
おそらくあの男と何かあったはずだと直感していたが、酒に飲まれてしまった早苗が、ここで何をどう話したのかわからない。
本人が口にしたかどうかも知れないことを、自分の推測や思い込みでしゃべるわけにはいかない。

『ま、とにかく、
 よく相手してくれたよ
 ありがとうな、洋介。
 安さん、これ』

圭司がポケットからクシャクシャの一万円札を出すと、洋介から貰っていると安助は首をふった。
洋介もいらないと言ったが、圭司は洋介のシャツのポケットにねじ込んだ。

『こんなにいらねぇよ』

『いい、とっとけ。
 麻衣のときも世話になった』

『ふぅん、あんがとさん。
 早苗ちゃんでなんか入れとくわ』

『圭司クン……』

タバコの火を潰しながら安助が口をひらいた。

『早苗ちゃん、
 ひとり相撲とってるんじゃないかな。
 そんな感じしたよ』

同居人として役目を果たせ、早苗の気持ちをくんでやれ。
安助の言葉の中に、そんな意味が含まれているのを圭司は察知した。
察知したが、ただ黙ってうなずくしかなかった。


 
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