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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い

鴨肉のラグーソースであえたリボン状のパスタを平らげると、早苗が二本目のワインを註文した。
すでに三人とも頬が赤らんでいる。
柔らかい明かりに照らされて語らう二人をぼんやりとながめながら、麻衣は、気持ちが少しずつ解かれていくのを感じていた。
目の前の二人は、素性も知れない自分が道端に置き去りにされた理由を聞こうともせず、なんとも優しい空気の中で、波うった気持ちをおさめてくれている。
それに対して自分の態度はすねた子供のようだ。
二人のほどこしに礼を言うにしても、謝るにしても、まずはさっきの出来事を二人に話さなければいけないのではないか……。
ともすれば無遠慮ともいえる、圭司と早苗がかもす雰囲気は、麻衣の胸の奥に告白衝動をわかせた。
麻衣がくちをひらいた。
『あ、あの、わたし……』
『ん?』『え?』
二人の視線が麻衣に注がれる。
突如自分に向けられた視線に、いったんたじろいだ麻衣が大きく息を吸いなおすと、
『ちょっと待って!』
早苗が麻衣を制止し、圭司をにらんだ。
『圭ちゃん、心しなさいよ。
女が深呼吸してものを言うの。
とっても重大なことなのよ。
ちょっとは居住まい正しなさいよ』
早苗は胸を張ってブラウスの襟を正し、圭司は背筋を伸ばした。
ではどうぞ! と言わんばかりの、かしこまった二人の態度がどうにも可笑しくて、麻衣が口元をゆるめて少し笑うと、圭司と早苗も目を合わせ、肩を震わせて笑いをこらえた。
『ちょっと圭ちゃん、
茶化さないでよ。
篠原さんに失礼じゃないの』
『なに言ってんだ、
早苗の前置きが余計なんだよ。
紅白の曲紹介かよ』
『ごめんね、篠原さん。
ふざけたわけじゃないのよ。
さ、聞かせてもらうわよ』
麻衣は、笑いをこらえて出てきた涙を指先で拭いながら気を取りなおし、できるだけの微笑をたたえて、とつとつと話しはじめた。

