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星と僕たちのあいだに
第6章 猫


時計は五時前をさしている。
底冷えのする倉庫内に一段と冷たいとばりが降りたのを感じて、早苗は背もたれにあったブランケットを圭司に掛けてやり、ソファの前でひざまずいた。

――――(いいよね、ちょっとだけ……)

息をとめ、ぐっすり眠る圭司の胸にそっと頬をあてた。
目を閉じて、毛布の奥から聞こえる圭司の鼓動にじっと耳を澄ます。
やがて早苗は恍惚として、口元をゆるませた。

夢みたい――――。
圭司の胸のあたたかみを知ることができるなんて。
まぶたの裏側の闇を心地よく感じたのは久しぶり。
甘いささやきかけなんていらない。
ああ、なんてうれしいんだろ。あごの骨がとろけそう。
このまま朝を迎えることができたらなぁ。
何かと引きかえにそれが叶うなら、私が差しだせるものは何があるのかな……。

大好きな男の胸で静かなよろこびにひたり、うっとりとしていたそのとき、早苗の後頭部に何かが触れた。
驚きがすこし遅れてやってきて、早苗はパチリと目をあけた。
幸福感は吹き飛び、すべての感情が停止した。

自分たち以外の第三者の存在を瞬時に察知した早苗は、ひっ、と息を飲んだ。
圭司から離れようとしても、頭をグイと抑えられて身動きできない。

―――――(ごめんなさいっ、もうしません)

姿の見えぬ第三者に許しを請おうとしても、怖気づいて声も出せず、混乱した早苗は呼吸をするのが精一杯だった。

『いいから』

圭司の声がした。

『いいよ、そうしてて』

あくびをかみ殺して圭司が言った。
早苗の頭をかかえ、濡れた髪をなでているのは圭司だった。

故障したのではないかと思うぐらいの速さで、早苗の心臓は拍をうった。
まぶたがつぶれるほど堅く目をつむり、首をすくめ、喜びとも驚きともつかぬ感情とともに、自慰行為の羞恥や後ろめたさが混沌として、それは麻衣に対しての大きな罪悪感となった。

『毛布かけてくれたんだな。
 ありがと』

大きなあくびをして、涙目になった圭司が胸元の早苗に微笑んだ。


 
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