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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
 

『起きてたのね』

『いんや、寝てた。
 風邪ひくとこだった。
 早苗のこと考えてたら
 うっかり寝ちまった』

『ひどい』

『ごめん』

猫の背をなでるように早苗の髪に手のひらをすべらせる圭司は、屋根裏をじっと見つめたまま、意志的な表情を崩さなかった。

早苗はソファの前でひざまずいたまま、しばらく黙って圭司の胸に身をひたした。
沈黙が続き、ストーブの燃える音だけが二人の耳に聞こえている。

奇妙な姿勢で過ごす、奇妙な時間。
日頃なれ親しんだリビングがこの世ではない異世界のように思えたが、早苗は、自分が圭司に身をあずけていることに、多少なりとも感じていいはずの違和感をまったく感じなくなった。

気持ちが軽くなったわけではない。
だが重くもなっていない。
ただ自分たちのあいだにあった垣根が払われていくようで、その心地よさがあった。

頭をなでられながら圭司の喉元をぼんやり見ているうちに、早苗は、ふと感じた。
私の想いの一端を、圭司が理解してくれたのではないか、と。

『何か、わかるの?』

早苗が訊いた。
だが訊いてすぐ、あっさりはぐらかされるだろうなと、早苗は訊いてしまったことを後悔した。

圭司が屋根裏を見つめたまま答えた。

『なにがってわけじゃないけど……。
 本心が言えないってのは、
 つらいよな』

早苗を思いやる、しみじみとした口調だった。

『けいちゃん……』

早苗は言葉をうしない、ぎゅっと目を閉じた。

――――(うれしい……)

涙がこみあげた。
それをこらえるのに早苗は全力で奥歯をかんだ。
けれども、どれほど唇を引き締めても口元がわなわなと震えてしまう。

早苗は自分の中に生じた変化をどう処理すればいいのか判らないまま、やがて歯の隙間から息をもらし、それにつられるようにしてボロボロと涙をこぼしてしまった。

『泣くことないよ』

髪をなでながら圭司が言うと、早苗は、圭司の胸に涙をこすりつけた。

『うん……ヘンよね、
 泣くなんて……』

自分が熱望していたものは、麻衣や渡瀬を裏切る卑劣なものだと思っていた。
だが少し違う。
狂おしい想いを深く知ってもらえた歓びがあった。
その手ごたえは決して悪らつな気配を持ったものではなく、骨のある清潔なものに思えた。



 
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