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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
『こんな共同生活じゃなかったら、
変わってたかもしれないな』
『いいの。
あたしのわがままだもん』
圭司はブランケットの中からもう一方の腕を出して、早苗の肩にかけた。
『俺と早苗は、気が合うのにな』
『うん、合う。
これからも仲良しでいて』
『ずっとな』
早苗はじっと圭司の胸に頭をあずけ、圭司はゆったりとした間隔で早苗の髪をなで続けた。
ふたりは互いに今しがた交わした会話の意味を考え、それぞれの立場を思いやったうえで、長い沈黙を受け入れた。
それは、どちらかが無為な問いかけすれば、あるいは、どちらかが少し体を動かしただけで、みずからの唇で相手の唇をふさぎ、際限なく求めあってしまうことを、互いにわかっていたからだった。
決して自分の置かれた立場や約束事を軽んじてはいない。
ただ、ほんの一瞬、自分たちをひとつにしようと、ふたりの心が動いたのは確かであった。
圭司が喉の奥で咳(しわぶ)いた。
そのタイミングで、トンと圭司の胸をたたいて早苗が立ち上がった。
『あたし、少し寝るわ』
突然誰かが帰ってきて、慌てふためくような失態は避けたかった。
圭司の胸の上にとどまった時間を、善良なままにしておきたかったのである。
『あったかくして休めよ』
早苗は何か言いたそうな顔をしたが、ためらいがちに小さな声で『圭ちゃんもね』と言い、背を向けた。
圭司はソファで横になったまま首だけをひねり、小屋へ戻る早苗のうしろ姿を見送った。
小屋の扉がぱたんと閉まるのを見届けると、持ち上げていた首を肘かけに落として、はぁ、と息をついた。
自分と早苗との関係に、ずしりとした重みを感じた。
早苗という人間を深く知り、その関係に、人として当然なさねばならない何かが持ちあがったような気がしたのだった。
男と女のあいだに交わされる約束事というのは、どこまで信頼に足るものなのか。
圭司は、麻衣の恋人という立場を自認しながらも、果たしてそれが、どれほどの責任や義務を求められるものなのだろうかと、あらためて考えた。