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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
『私、さっき……
つきあってた人に、
捨てられたんです』
圭司と早苗は笑みを消し、いちど二人で目を合わせてから麻衣の話に耳をかたむけた。
『私には子供が産めないって、
検査でそれがわかって……』
ちいさくため息をついた早苗が、小きざみに顔をふった。
男に捨てられた、妊娠できない、その二つの告白だけで、麻衣の身に振りかかった不幸がどれほどのものであるか、早苗には想像がついた。
食べかけの皿に視線を落とし、麻衣は話をつづけた。
自分は大学病院につとめる看護師で、同じ病院で働く医師と恋におちた。
相手のアパートで同居をはじめて、もう二年になる。
自分たちは結婚の約束をしたが、片親で育った自分の素性を嫌った相手の両親は、結婚に難色を示した。
そんな両親を納得させようと男は強行策を提案してきた。
既成事実をつくれば、男の両親への説得材料になる。
日を見定めてそのための性交渉をもったが、いっこうに妊娠しない。
半年前、不審に思い、造影検査を受けたところ、卵管周囲の癒着によって妊娠が難しい身体だとわかった。
中学生のころに受けた腹膜炎の手術が原因だった。
それ以来、男は徐々に自分を遠ざけるようになった。
そのつど理由を変えて、アパートへ戻ることも少なくなっていった。
男には以前から別の女の影が見え隠れしていたが、ひと月ほど前、男を問い詰めたところ、新しい女の存在を認めた。
相手は同じ病院に勤める、自分よりも若い看護師だった。
男に別れたいと切りだされ、自分は承服するしかなかった。
さっき男から呼び出され、新居を建てる計画があるのだと打ち明けられた。
ついてはこれまで二人で暮らしてきたアパートを引き払いたいと言われ、アパートを空にして出ていくよう、車の中で告げられた。