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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
自分の言葉や態度、行為。麻衣との肉体的な結びつき。
それらについて負うべき責任というものが自分にはあるはずだが、今の自分の姿勢は曖昧に過ぎるのではないか。
麻衣がときおり見せる 度を失った心配性の原因は、恋人同士というあやふやな人間関係への不安ではないか。
その不安が、麻衣に過敏な反応をさせているのではないだろうか。
早苗が酒に溺れたり、渡瀬や不倫男に身をゆだねてしまったのも、性欲よりはむしろ、不安を押し込めるための麻薬のようなものだったのではないか。
そう考えると、信頼というもの、それ自体に不安も疑いも持たず日々を過ごせることが、人間にとっていかに大切なものか。
強いつながりを実感できることこそ、正真正銘の幸せではないか。
『不安にさせちゃ、いけないよな』
今の早苗には、自分たちの関係に楔(くさび)を効かせてやることが必要なのだ。
人の心の対価となりえるものは人の心しかない。
それのみが、早苗にとって、蓮池にたらされたクモの糸となるのかもしれない。
そして早苗の心根ならば、その糸を登りきれるのではないか……。
圭司はソファに座り直し、早苗の小屋の扉をじっと見つめた。
必要とされているのは他の誰でもない、自分である。
早苗は抱擁を必要としているのだ。
あの扉をあけ、早苗を抱きしめてやれば、それで早苗を救うことができる。
¨私を助けて¨
そんな早苗の声が、圭司の胸にこだました。
やもたてもたまらず、すでに圭司は早苗の小屋に向かって歩きはじめていた。
ドアの前に立ち、ノブに手をかけた。
真鍮製のアンティークノブの冷たい感触が、手のひらにヒヤリと沁みこむ。
初めてではないその感触が記憶を呼びおこし、圭司はノブを握ったまま はたと立ち止まった。
自分の考えに短絡をおぼえたのである。