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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
 
目に見えない強い力が、圭司を戸惑わせていた。
「大丈夫なのか?」と自分に問う圭司の脳裏に、ダンガリーシャツを着て口をとがらせる麻衣が浮かび、次いで、不倫男に抱きついてもだえ狂う早苗が見えた。

一瞬にして不倫男への憎悪が湧きあがり、強烈な嫉妬が圭司の体をふるわせた。

『なに考えてんだ、俺は』

熱いものに触れたようにドアノブから手を離して、自分の小屋へもどり、うしろ手で力いっぱいドアを閉めた。
大声で叫びたいのを懸命にこらえる圭司の耳の奥に、勢いよく閉めたドアの音が長く残った。

圭司は罪悪感にさいなまれ、嫌悪に恥じた。
そして、つくづく早苗をあわれに思った。
その美しさと性的な魅力に目を奪われてしまい、早苗にかかわる男はみな、彼女の本質にたどり着くまえに人間性を失っていく。
早苗が求められるのはいつも、心ではなくカラダなのだ。
だから早苗はいつもクズのような男としかつき合えない、そう思っていた。

だが、あの不倫男を憎悪し、嫉妬に狂った自分はいったい何に嫉妬したのか。
記憶の断層から出土した早苗への愛。
その真偽を確かめかけて、圭司は自分の眼も曇っていたことに気づいたのだった。


その夜、圭司は烈しく自分を汚した。
己の偽善を打ち消すかのように、圭司の股間には偽悪がみなぎっていた。
嫉妬によって意識の表舞台にひきずりだされた妄想は、いかがわしく、乱暴で、ワイセツなものであった。

撮影現場で目にした不倫男の性的な眼差しや、獲物に舌なめずりするような口元。
曖昧な表情で首をかしげる早苗。タイトスーツから伸びた長いふくらはぎ。
それら性の匂いをかもした記憶の断片が想像によって補完され、圭司の脳裏で生々しく動きはじめる。
二人の行為を直接見たわけではない。
だからこそ、妄想はより強く、圭司をあおりたてた。


 
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