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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
たしかに圭司は以前から早苗の好意に気づいていて、恋のような感情を抱いたこともあったが、圭司の中に宿る邪淫が早苗との恋を成立させなかった。
居酒屋での初対面から共同生活を経て、早苗の美しさはいつしか肉体美の象徴となって圭司の意識に棲みついていた。
早苗のめざましい性的魅力は男の性願望をそそり、男であれば誰しもが、この女と寝てみたいと妄想を誘発される。
同時にそれは早苗の過去への嫉妬をも誘いだす。
いつでも手の届くところにいる早苗の、実際には見ることのできない裸体や性行為の妄想によって、圭司の心の中には彼だけの早苗が息づくようになった。
身近であるがゆえイメージは生々しく、現実の早苗よりも、夢想の中で快楽にもだえ狂う早苗に心ひかれるようになっていった。
圭司にとって、そんな邪心にまみれた自分と早苗とのあいだに、「恋」という言葉をすえるのは決してふさわしくなかった。
そして、早苗の好意もまた一過性のものであり、不倫男との失恋の痛手をいやすための気休めであろうと思いこんだ。
だが、早苗の想いは本物だった。
彼女は愛情を育てた。
早苗を胸に抱いたとき、圭司は、自分と早苗をつなごうとする力を感じた。
その力は、いつか自分たちに、何らかの形で愛を確かめさせるような気がした。
それは、麻衣とのあいだに生まれた愛情とはだいぶ違うもののように思えた。
『なりゆき、か……』
釈明するようにつぶやいて、圭司は肩を落とした。
第六章 猫