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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
朝寝坊したことに気をとがめるほどの晴天が、ねぐらから出てきた四人を迎えた。
麻衣と圭司が買い出しに行くあいだに、渡瀬は折りたたみイスやテーブルを自分の車に積みこみ、たっぷりと日焼けどめを塗った早苗を乗せて、倉庫から車で五分ほどのところにある海浜公園へ向かった。
広大な芝生広場を底とするフライパン型に造成された海浜公園は、広場をすり鉢状に囲う形で遊歩道が整備されていて、遊歩道にそって植えられた桜が毎年見事な花をつけ、人工の埋立地には不釣りあいな格別の彩りをそえる。
公園は春の陽気につり出された花見客でたいそう賑わっていた。
そちこちからただよう酒とごちそうの匂いをかいくぐり、渡瀬と早苗は、用具を乗せた台車を押しながら場所を探して歩いた。
すり鉢状にせりあがった尾根の付近にちょうどよいスペースを見つけ、こぼれんばかりの満開の桜の下で二人はようやく陣を張った。
手際よくコンロや椅子を組みたてた渡瀬が、軍手をはめて炭をおこす。
『わ。浩ちゃん、手なれてる』
『だろ。見直したか』
燃えさかる着火材の上に木炭を積みあげ、うちわで軽くあおりながら渡瀬はうれしそうに笑った。
『しょっちゅうやってたんだよ。
ここに住みだしてすぐの頃なんて、
ほとんど毎日だったなぁ。
仕事も金も無かったから、
倉庫ん中でもよくやったな』
『中で?』
『そうそう、
食べ終えても炭火は長くついてるだろ。
それにあたりながらウィスキー飲んで、
圭ちゃんと夜どおし話したりしたよ。
冬場はガス代の節約になっていいんだ』
『へぇ、たのしそう』
早苗もうちわで空気を送った。
やぐらに積んだ真っ黒な木炭に火がうつり、火のまわった部分は白く色が抜けていく。
消えたように見える炭火は、うちわで送られた新しい空気を吸いこむたび、力強く真っ赤に光った。
―――――(ときどき、私もこんなふうになるわ)
こうこうと輝く炭火をじっと見つめ、早苗はひとり微笑んだ。