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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
 
圭司の胸に身を寄せた夜、早苗の想いは圭司に届き、ふたりは理解しあった。
けれども、それで圭司への想いが消えたわけではなく、早苗はあれからもときどき、何かしらせっぱ詰まった心境にはまりこみ、そのつど苦しんだ。

もう手に入れようとしてはならないと感情に枷(かせ)をかけても、それがかえって想いに拍車をかけ、コンロの中で熾(おこ)る炭火のように、早苗の恋心は真っ赤になって爆(は)ぜてしまう。

早苗にとって一番つらいのは、勢いづいた気持ちがおさまるまでの、あの切なく息苦しい時間をじっとやりすごさねばならないことだった。
火が消えるのを待つのは、恋に胸を焦がすよりもずっとつらいのだということを早苗は知った。

ただ、あの夜の圭司との交感が早苗の情緒に安寧をもたらしたのもまた事実であり、早苗自身も心の変化に気づいていた。

あの夜、圭司は自分たちの関係に明確な判定を下した。
それは事実上、ノーの回答だといえた。
だが同時に、手ごたえのしっかりした壊れることのない愛情が示されたのだと、早苗は感じている。
そこに性の匂いはなく、すがすがしさと、たくましさと、安心があった。
恋愛やセックスや結婚といった、いっときのはかない感情に依拠した関係ではなく、人間としての尊敬や信頼によって自分たちは強く結ばれているのだと。
それが、今後の自分たちの幸福の価値を決める重要な鍵になるのだと早苗には思えた。

あのとき、なりゆきまかせに自分を抱かなかった圭司を女として少し恨めしく思いながらも、愛する者を裏切らなかった彼を人として以前よりもずっと好きになった。
圭司は男の本能に突き崩されなかった。
そうして、自分たちの関係を守ってくれたのだ。

¨私は、大切にされている¨

倉庫に響きわたったドアの音を思い出すたび、早苗はそう感じる。

―――――(ながぁく着いてるんだって)

カンカンに熾(おこ)った炭火の熱を頬に感じながら、うふふ、と早苗は笑った。



 
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