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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
渡瀬が段取りよく火をおこせるのは、この公園でのバーベキューが貧乏暮らしの日常茶飯だったからである。
バーベキューといっても、横着な二人はいわゆる焼肉用の小さな肉をいくつも並べて返すのを嫌い、安いステーキ肉や鶏の胸肉をアミの上でじっくり焼くのを好んだ。
焼きあがった肉を圭司がトングでつまみ上げ、渡瀬がはさみでチョキンと切って皿の上に落していくだけで、あとはチェアに浅く座ってボロのクーラーに足をかけ、缶ビールをやりながら、ゆっくり桜なり海なりを愛でるという簡素なものであった。
圭司が初めて倉庫へ来たとき、倉庫の一角をうめるほどの、大量の箱詰め木炭が山積みにされていた。
前の借り主だった輸入業者が中国から仕入れたもので、倒産してしまったその業者が、処分に困って残していった商品だった。
仕事がない時分、金はなくとも炭はあるという二人は、毎日のように公園でバーベキューもどきの自炊をし、木炭を始末していった。
それでも使い終えるまでに二年を要したのだった。
買いだしに出ていた二人が合流し、さっそく焼きアミの上に食材が並んだ。
焼き加減をうるさくいう渡瀬がナベ奉行ならぬアミ奉行となり、焼き場の陣頭指揮をとった。
渡瀬がしっかりとおこした炭に、焼アミの上のステーキ肉から落ちた油がジュッと鳴って白い煙に変わる。
『いい風だなぁ』
渡瀬は目を細め、皿の肉をつまんで口に入れた。
『桜って、散り際が好き。
あのときが一番、優雅よね』
エビの殻をむきながら早苗がしみじみ言うと、伸びをした圭司がときおり花びらを散らせてくる頭上の桜を見あげた。
『そうだよなぁ。
何があってもお構いなしだもんな。
その時期がくれば必ず咲いて、
惜しみなく散って。
惜しみないってのは
優雅さのひとつだろうな』
四人は首をのけぞらせて桜を見あげた。
真下から見る桜の花は、桃色ではなく陽を透かしてほとんど白く見える。
『桜の花って、
みんなこっち向いてくれてるから
いいんですよね。
足元で見てる人のために咲いてるみたい』
麻衣の言葉に、他の三人は見あげたままうなずいた。