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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
 
『そう言われたあと、
 車から降ろされました……。
 気づいたら白石さんが目の前にいて、
 いま、お祝いの席にいるんです』

麻衣は眼をうるませはしたが泣き崩れはしなかった。
子供を産めない自分に、相手の大切な時間を使わせてしまった心苦しさがある、と言った。

話しおえた麻衣のひっそりとした横顔に、気の毒で哀れに思う以外の何かを、圭司は感じた。
狂おしいほどひたむきに、相手の男を愛していたのだろうと想像させるものがあった。

話の途中から早苗はうつむいて、何度か目尻をぬぐっている。

『ひどい話ね……』

早苗のつぶやきに同意を示すため息をついたあと、圭司は何かに納得したように小さくうなずいた。

『篠原さん、
 そのアパート引き払って
 行くあてあるの?』

『いえ、なにも決めてません。
 どこかに探すつもりです』

『荷物はいつまでに?』

『月末が締め日ですから、
 あと三日です』

『みっか、かぁ……』

圭司は頭のうしろで手のひらを重ね、天井を見上げた。
行くあてもない女に三日以内に出ていけとはあまりに乱暴な話だなと思ったが、それを議論している状況ではない。
今の彼女に煩雑(はんざつ)な引っ越しの手続きができるとは思えない。
必要なのはなぐさめや助言ではなく、ちょっとした、人の力だ。

『圭ちゃん……』

せっつくような目つきで早苗が圭司を見つめる。
圭司はやさしい笑みを早苗に返し、麻衣に顔を向けた。

『あのさ、篠原さん。
 荷物どれぐらいあるの?
 俺たちで預かるよ』

麻衣は見開いた目を圭司に向けた。

『どうしてですか?』

その声は少し尖ったものになった。
なぜこの人が自分を助けようとしてくれるのか、麻衣は、圭司の真意をはかりかねた。
そして、同情を誘うような話し方になってしまったのかもしれない、と圭司に詫びた。

そんな麻衣をなだめるように、

『どんな話し方でも、
 誰が聞いても、助けたくなるよ』

と言ったあと、もちろん篠原さんさえ良ければ、とつけ加えて圭司は笑った。



 
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