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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
陽がかたむいて木の陰が長くなり、帰り支度をする花見客がぽつぽつと目に付きはじめた。
『冷えてきたな。
うちもそろそろ帰るか』
クーラーに誰も手を伸ばさなくなって、渡瀬が腰をあげた。
あと片づけの途中、麻衣はいくつかできたゴミ袋を持って、公園内のゴミ集積場へ向かった。
ゴミ袋を捨て、ついでに手を洗おうと集積場の横にある公衆トイレにまわると、トイレの前に人だかりができていた。
人だかりの真ん中には、小学校にあがるかどうかぐらいの男の子がポツンとしゃがみこんでいて、周囲の大人たちはその子をのぞきこんだり、携帯電話を出して警察に保護を求めようかとか、その前に管理事務所に連絡して放送してもらったらどうかなどと口にしている。
どうやら男の子は、親とはぐれた迷子のようだった。
駆けつけた公園の職員が手を差し伸べたが、男の子は顔をそむけてその手を拒否した。
頭をなでられると亀のように首をすくめて体に触れられるのを嫌がり、職員がその子と同じ目線にかがんでも、男の子はヒザをかかえたまま体の向きを変え、職員を拒んでいた。
栄養状態が悪いのではないかと、看護師の視点で麻衣は疑った。
その子は手足が細く、すこし痩せているように見えたからである。
のぞきこむ職員を拒否し、その場でちょこちょこと体の向きを変える男の子と、様子をながめていた麻衣の目が合った。
すっくと男の子は立ちあがり、麻衣に向かって一直線に小走りでくると、両手を広げた。
『え? わたし?』
麻衣は自分を指さして、その子に向かって顔を突き出した。
男の子は小さく地団駄(じだんだ)をふんで両手を動かし、抱いてくれと身振りした。
戸惑う麻衣に、男の子は、
『ママ、ママ』
と、声を絞り出した。