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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
『わたし、
ボクのママじゃないよ』
麻衣はそう言ったが、なおも男の子は求めてくる。
『よかった、よかった。
お母さん来たんですね』
男の子を扱いあぐねていた職員が麻衣のところへやってきて安堵の表情を浮かべた。
それに対して麻衣は、自分が母親でないことを説明した。
『あら、そうだったんですか。
でも、この子、ママって』
『ええ、そうなんですけど、
わたし違うんです』
職員は不思議そうな面持ちで、男の子と麻衣を交互に見て首をかしげた。
麻衣を求める男の子の哀願は、麻衣から見ても、知らない大人に子供がするようなものではないのである。
泣くわけでもなく、しがみつくわけでもない。
男の子は手を広げ、僕を抱いてほしい、と子供らしくない一途に哀しげな表情で、ただただ麻衣に訴えている。
周囲の人々の怪訝な目つきが麻衣に刺さる。
なぜ我が子を抱いてやらないのか、そんな囁きが聞こえてきそうな雰囲気に押されて、麻衣がしゃがむと、男の子は麻衣の首に手をからませて、ぴったりと抱きついた。
男の子の躊躇のなさに麻衣は一瞬たじろいだが、男の子の首元から香る小さな子供特有の毒を含まない汗の匂いが、なぜか麻衣に高揚感をもたらした。
職員はこの二人が親子ではないと確信がもてず、うたぐり深い目つきで麻衣を見ながら、ことのあらましを管理事務所に無線で連絡していた。
『とりあえず、
管理事務所に行きましょうか』
『あ、え?
わたしもですか?』
そう言ったあと、麻衣はすぐに、わかりました、と言った。
ここに降ろしても、この子はその場から動きそうにない。
このままいっしょに管理事務所へいき、そこでお役御免にしてもらおうと考えたのだった。
職員と管理事務所に向かう途中、麻衣は、男の子の体重が思いのほか軽いことに気づいた。
体もきゃしゃで、やはり痩せている。
職場でときどき子供を抱くことがあるが、手ごたえがまるで違っていて、食事の好き嫌いがひどいのか、はたまたネグレクトや摂食障害があるのか、どういった事情があるのか判らないまでも、あまりに弱々しい男の子を少々ふびんに思った。
それに、あれだけ他にも大人がいた中で、どうして自分を母親といってきかないのか、その点も腑に落ちなかった。