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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
管理事務所に着いても、男の子は麻衣から離れようとしなかった。
何かのリズムをとるように麻衣の服の背中をキュッと握ったり、ときどき、その子なりの渾身の力で麻衣に抱きついてくる。
管理事務所の職員が用紙を挟んだクリップボードを差しだして、住所と名前を記入するよう麻衣に求めてきた。
そんな必要があるんですか? と麻衣は拒否したが、最近は子供にかかわる事件が多く、こういった事案では身分証明をとる条例が制定されているのだと職員は譲らなかった。
麻衣は、男の子を抱いたまま折りたたみイスに座り、お役所仕事だなぁ、と思いながら用紙に記入したあと圭司に電話した。
管理事務所にいることを麻衣が言うと、圭司は、上から見えてた、と言い、男の子を抱いて歩く麻衣を見て、渡瀬が迷子じゃないかと推理したことを伝えた。
『うん、ママだって言われて、
離してくれないの』
困ったような口調で麻衣は言ったが、ぺったりと抱きついてくる男の子への嫌悪感はなかった。
《へぇ、ママかぁ》
麻衣の言葉が、いまの圭司には特別な響きをもって聴こえた。
『よくわからないけど、
保護者が来るまで
居ないといけない感じなの』
《気に入られたんだなぁ。
浩ちゃんたちは先に帰ったし、
俺だけだから気にしなくていい。
出入り口の噴水あるだろ?
あそこで待ってるよ》
電話を切ったあと、麻衣は、管理事務所の正面から差しこんでくる強い西日に背を向けて座りなおし、男の子に名前や年齢を訊いてみた。
男の子は麻衣の胸元に顔をうずめまま、答えようとはしなかった。
二度目の園内放送が流れても保護者まだ現れなかった。
知らず知らず麻衣は、抱いた男の子の背中をなでたり、お尻のあたりをトントンとたたいたりしながら、男の子の安静をはかっていた。
麻衣が男の子のお尻をトンとすると、男の子はキュッと麻衣の背中を小さな手でつかむ。
さっき会ったばかりの見ず知らずの子供と、たわむれをともなった、わずかな意思疎通ができていることに、麻衣は心安らぐものを感じた。