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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
 
父親に抱かれた男の子は、麻衣に右手を伸ばし、小さな手のひらを握ったり開いたりして、なおも麻衣を求めた。
欲求を完遂しようとする意志と、あきらめなければならないという無念を象徴するような、男の子の単調で稚拙な手の動かしかたは、麻衣の胸の内に感傷的なものを沁(し)ませた。
男の子の求めには、どことなく我慢と羞恥が含まれていて、麻衣は、彼のいじらしい求めに応じてやれないことに、いくばくかの罪悪感を感じた。

『ごめんね。直樹クン』

『あ、いえ、そんな。
 ほら、直樹、
 おねぇさん、ありがとうは?』

父親が言うと、男の子はついに麻衣をあきらめ、伏せた顔を父親の肩のあたりに埋めた。

『こら、直樹』

無理に差し向けようとする父親を麻衣は笑顔で制止し、抱かれた男の子の背中を軽くなで、父親に会釈して事務所を出た。

すでに陽は落ちて、すっかり暗くなっていた。
ところどころにぼんやりともるガーデンライトを頼りに、エントランスに向かって遊歩道を歩きながら、麻衣は、男の子の手ごたえが自分の胸元から失せたことにかすかな寂しさをおぼえた。

男の子の印象をなぞり、自分はああいう子が好きなんだな、と思った。
トイレの前で見たときから、あの子は泣きわめくこともなく、すがるものを信じて状況が好転するのをじっと待っていた。

――――(芯の強い子よね)

父親は休日の家族連れにふさわしい軽装であったが、無礼な感じはまるでなく、眉が太く精悍で、よどみない声の張りや姿勢のよさから、きちんとした会社の勤め人なのだろうと想像できた。
そして、母親と間違われたことで、男の子の母親がどういう人物であるのかにも興味がわいた。


 
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