この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
『そんな……
きょう会ったばかりなのに、
ご迷惑です』
圭司はワインを飲みほすと、もういちど麻衣に微笑みかけた。
『俺たちはね、
俺とこの早苗と、
もうひとり渡瀬ってのがいるんだけど、
三人で住んでるんだよ。
港の倉庫街なんだけどね。
見晴らしが良くて、
海も、その向こうの山も見える。
古い倉庫だけど、
巧くやって住み心地はいいよ。
広々しててね。
冬場はすこし寒いけど。
なんなら、荷物と一緒に
篠原さんも嫌になるまで居ればいいよ』
そこまで言うと圭司は大きくうなずいて、
『今は、一人でいちゃダメだよ。うん』
と、諭(さと)すように言った。
『そんな……』
麻衣はあとの言葉を失った。
にわかにわいた動揺を隠しきれず、口元を小さくゆがめて、下まぶたを涙でふくらませた。
嬉しいのでも、哀しいのでもなかった。
情けない気持ちと安堵とが、彼女の中でかわるがわるに浮き沈みしたのだった。
『こまかいことは、
気にしなくていいよ。
なぁ、早苗。いいよな』
『うん、いいよ。
おいでよ。篠原さん』
二人の厚意がうれしくて、麻衣は、こぼれおちそうになる涙の粒をそで口でふいた。
すさみきっていた心のなかに、あたたかいものが注がれるような心地よさを感じた。
「ありがとう」という麻衣の言葉は小さな嗚咽にうもれ、ほかの誰にも聞きとりにくかったが、麻衣は何度も大きくうなずいて、感謝の気持ちをあらわしていた。
次の料理を出してもいいか、と合図を送ってきたウェイターに早苗が笑顔で応じた。
『さぁ、次は
キノコどっさりのリゾットだって。
しっかり食べようね』
『あとは楽しみばっかりさ。
もう泣かなくていい』
うなだれた麻衣の背を圭司がさすった。