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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
ドンッと麻衣を抱き止めた圭司は、体を軸にして、くるりとその場をまわった。
圭司は想像した。
迷子を抱いた麻衣が、何を欲し、何に嘆き、何を祈ったか。
そして、舞い上がった桜の花びらにかいま見た、麻衣の背中の印を強く憎んだ。
そっと麻衣を降ろすと、圭司は、腕の中にいる最愛の人を見つめた。
目尻を濡らした麻衣が、こらえ切れぬものを懸命にこらえるような顔で見つめ返している。
エントランスに立つ水銀灯の無機質な灯りが、麻衣の唇や涙堂の下に濃い陰を落とす。
それが白い肌に強いコントラストをつけ、いつも以上に麻衣の表情を豊かに見せてくれた。
自分の恋人はとても美しい女だと、圭司は思った。
麻衣を見つめ、
『結婚してくれないか』
圭司はそう言った。
麻衣は息をのみ、大きく眼を見開いて、まっすぐに圭司を見つめた。
その大きなふたつの眼に映る自分自身を確かめて、圭司は、この女と一緒に生きていこうと心に決めた。
麻衣は泣き顔に笑顔を挟みこんだような判別のつかない表情で、口をあけたり閉じたりしながらどうにか息をして、何度も、なんどもうなずいた。
『もらってください。
私、いい奥さんになるから。
絶対に、ぜったいに……』
それだけ言うと、圭司の胸に顔を沈めた。
水銀灯に照らされて、ふたりはずいぶん長く抱きあった。
吹き降りてきた山風が冷やかしの声をかけるように、二人の足元に桜の花びらを舞わせた。