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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
 
二人の歩調にあわせるように、まどろこしく、ポツリポツリと麻衣が話しはじめた。

『私と結婚するってことは、
 ずっと、二人ってことでしょう?
 旦那様の分身を創ってあげられないの。
 それって、男の人に
 貧乏くじ引かせるようなことだもん。
 とても不遇な立場に巻きこんじゃう。
 前の人もそれでいなくなっちゃった。
 当たり前よね。

 でも……。
 それでも、私と一緒になろうなんて人は、
 奇特で、変り者で、酔狂で、それに……』

麻衣は、小首をかしげ、口をつぐんだ。
二、三歩進んで圭司が訊いた。

『それに?』

『それに、物の哀れを知る人、かな』

時代がかった麻衣の言葉は、圭司の首をかしげさせた。

『もののあわれ、か。
 古典の授業で習った気がするな』

『うん。私も、
 江戸時代の偉いお医者さんの言葉だって、
 前の師長さんに教えてもらったの。
 ナースたる者、物の哀れを知りなさいって』

『じゃ、麻衣に求婚する男は、
 俺も含めて、奇特で、変り者で、酔狂で、
 物の哀れを知ってるってことだ?』

麻衣は、こくりとうなずいた。

『そう。
 ただ優しいだけの人じゃなくて、
 どうしようもない哀しいことに、
 心を寄せることができて、
 ああ、哀しいねって思える人。
 うれしいことも、哀しいことも、
 一緒になって背負える人。
 そういう人の「愛してる」は、
 私の、自分でも気づかない深い部分を見て、
 そう言ってくれてると思うの。
 だから私は、普通の女の子よりも、
 おっきな「愛してる」をもらえた気がしてる』

そう言って、麻衣は照れくさそうにうつむいた。

麻衣の言葉は圭司の心に共鳴を呼び、幸福感をも誘い出した。
哀しい不妊の事実が麻衣という人間にもたらしたものは、苦悩だけではなかった。
それとは別に、人として知っておかなければならない大切な何かを獲得させたのだ。
そうして麻衣こそが、物の哀れを知る人になれたのだと、圭司は自分の推察に納得してうなずいた。


 
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