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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
メインのフィレステーキを食べ終えたころ、申し訳なさそうにレストランの扉をあけた渡瀬に、圭司が気づいた。
『よぉ、遅かったな』
『いやぁすまん、すまん。
こんな日に限って長引くんだよな』
頭をかきながら店に入ってきた渡瀬が、見慣れない顔に会釈した。
『渡瀬です。はじめまして』
麻衣は立ちあがり、篠原です、と頭を下げた。
『お前の分は
篠原さんが食べてくださった。
浩ちゃん、よく礼を言っとけ』
圭司が真顔で言うと、見るからに人のよさそうな渡瀬の丸い顔がゆるんだ。
『あ、そりゃ申し訳ない。
篠原さん、どうもありがとう』
『あ、え? そんな、え?』
あわてる麻衣に『篠原さん、冗談よ』と早苗が助け舟を出し、渡瀬は目尻にくしゃくしゃのしわを集めて人懐っこく笑った。
上着とショルダーバッグを椅子にかけた渡瀬に、さっそく圭司が訊いた。
『浩ちゃん、あした休める?』
『金曜か。なんで?』
『引っ越しだ。
篠原さん、うちにくる』
『あ、そうなの?』
渡瀬は小さく驚いて、笑顔を残した明るい表情を麻衣に向けた。
『そう、で、時間ないんだ』
『わかった。休む』
渡瀬はいっさい難色を示さずに、突然の申し出を快諾(かいだく)した。
『二人で?』
『いや、
さっき洋介にメールしといた。
二、三人若いの連れてくって』
麻衣は目を丸くした。
渡瀬にしろ圭司にしろ、それ以外の者も、きょうの明日でそんな簡単に都合がつくものなのか。
『あ、あの私、やっぱり』
圭司が周囲に無理をさせているのではないかと思い、やはり甘えられないと口を挟んだ。
『大丈夫よ。
圭ちゃんが言ってるんだもん。
心配ないわ』
早苗が微笑む。
『それよりさ、
もう今日からおいでよ。
下見かねてさ。
あたしのベッド貸してあげる』
早苗の誘いに麻衣は二つ返事で答えることができずにいた。
助かった、という気持ちのまま、果たしてノコノコとついていっていいものだろうか。