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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
圭司に尻を突き出した姿勢で壁に手をつき、恍惚とする麻衣の視界にリトグラフのモンローが微笑んでいる。
LEDの赤色にぼうっと浮かぶモンローの微笑と目をあわせるうち、なぜか麻衣は、彼女の扇情的な笑顔に哀しげなものを感じた。
誰にも言えない苦悩をおおいかくす為に生みだされた微笑のように思え、それが麻衣の内部に共感を呼びおこした。
私の笑顔もきっとあんなふうだった。
整然と模範的にいい子ぶって、あれもこれも隠してきたけど、でも、ほんとは違う。
ほんとの私は性欲に堕(だ)した、快楽に欲どしい女。
今だって、こんなにも恥ずかしい格好で本心はよろこんでる。
たぶん圭司は、そんな私を見透かしてるだろう。
だけど、この人のカラダの求めようは、生き物としてとても真っ当に見える。
なんだか、互いに正直でいようって言ってくれてるみたい。
いつもと雰囲気を変えて、肉的に私にかかわることで、もしかすると私という女の本質を理解しようとしてくれてるのかもしれない。
本当の私を見せてもいいのかな……。
いや、見せなければいけないんじゃない?
私は求婚されたんだ。
たとえ道義的な約束であっても、
生涯を共にしようというこの人に、
私の哀れを知ろうとするこの人に、
偽りをたずさえた私を愛させていいわけがない。
私はこの人の妻になるのだから、善良でない自分も、まとめて圭司に引き受けてもらえば、それでいいんだ……。
麻衣は、このとき初めて圭司の伴侶になる実感を得た。
そうすると長らく心に居座っていた、まがまがしい呪縛(じゅばく)が解けていくような心地よいゆるみをおぼえた。
そして、能動的に性を満喫することは、正直でなければできないのではないかという思いが麻衣の胸のうちにふくらんだ。