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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
 
ついさっきまで絶望の淵にいた。
それからまだ三時間も経っていないのに、素性の知れない男女が一緒に暮らそうと言っている。
普通のことではない。

急な展開に気が動転して、私は平常心を失っている。
それにこれは不謹慎でずうずうしく、はしたないことではないか。

けれども、あっけらかんと笑う目の前の三人に、悪辣(あくらつ)なものはどこにも感じない。
なにより隣にすわる圭司という男。
この男のとっぴょうしもない要求に周囲はこころよく応じ、大手商社のキャリアウーマンが全幅の信頼をおいている。
そういえば初めて会ったときも、あの気難しいガン患者を笑顔ひとつで懐柔(かいじゅう)し、『あの子は大物になるわ』と言わしめた。
いったい、この人は何者なんだろう――――。

しばらく沈黙が続いた。
早苗がじれったそうに目を細め、渡瀬と圭司も麻衣の答えを待っている。

何かしら答えなければいけない状況で、警戒心に勝るかすかな期待が麻衣の中で頭をもたげた。
意を決し、麻衣は頭をさげた。

『お世話になります。
 よろしくお願いします』

テーブルに安堵の空気がもどり、いっそう優しい視線が麻衣に向けられた。
麻衣は自分が下した決断に自分で驚きながらも、長らくしおれていた心の芯がゆっくりと撓(しな)うのを感じた。
そこには何か漠然とした、幸福の予感があった。







第一章  雨、出逢い
 
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