この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
ついさっきまで絶望の淵にいた。
それからまだ三時間も経っていないのに、素性の知れない男女が一緒に暮らそうと言っている。
普通のことではない。
急な展開に気が動転して、私は平常心を失っている。
それにこれは不謹慎でずうずうしく、はしたないことではないか。
けれども、あっけらかんと笑う目の前の三人に、悪辣(あくらつ)なものはどこにも感じない。
なにより隣にすわる圭司という男。
この男のとっぴょうしもない要求に周囲はこころよく応じ、大手商社のキャリアウーマンが全幅の信頼をおいている。
そういえば初めて会ったときも、あの気難しいガン患者を笑顔ひとつで懐柔(かいじゅう)し、『あの子は大物になるわ』と言わしめた。
いったい、この人は何者なんだろう――――。
しばらく沈黙が続いた。
早苗がじれったそうに目を細め、渡瀬と圭司も麻衣の答えを待っている。
何かしら答えなければいけない状況で、警戒心に勝るかすかな期待が麻衣の中で頭をもたげた。
意を決し、麻衣は頭をさげた。
『お世話になります。
よろしくお願いします』
テーブルに安堵の空気がもどり、いっそう優しい視線が麻衣に向けられた。
麻衣は自分が下した決断に自分で驚きながらも、長らくしおれていた心の芯がゆっくりと撓(しな)うのを感じた。
そこには何か漠然とした、幸福の予感があった。
第一章 雨、出逢い