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星と僕たちのあいだに
第7章 迷子
麻衣が訊いた。
『嫌わない?』
『嫌う? 何を?』
『エッチな子』
圭司は鼻息だけで笑った。
麻衣の乱れぶりをつまみ上げて、身も世もあらぬほどに恥ずかしがらせてやろうかと遊び心に考えたが、今夜はやめとこうと思った。
『嫌うもんか。
麻衣は、それでいいんだ。
俺、気持ちよかったよ』
心をなでるような声だった。
『私も……気持ちよかった』
麻衣は、圭司の肩の上に頭をのせてささやき、首すじに幾つもキスをした。
人の心って、なんでもお化けにしちゃうのね……。
今まで前科者みたいに自慰やセックスのことは後ろ手に隠してきた。
でも、実際はいけないことでも、恥ずかしいことでもない、正直な愛情表現なんだ。
十五年前のにさかのぼって、あのころの私に、そうじゃないのよって言ってあげたい。
母の死とあなたのいたずらは無関係なのよ。
あなたは二十五歳の秋に、とっても素敵な人と出逢うのよって。
あるがままの交わりは、およそ不安定で揺れやすい麻衣の内面の混沌に調和をもたらした。
その澄みきった清適(せいてき)のなかで、麻衣は、きょうまで長く掲げてきた「模範的ないい子」の旗を降ろした。
『ねぇ……』
耳元でささやかれたその一言で、圭司のものがむくりと起きあがった。
麻衣の声にはいつもの童女的なかわいげ以外に、蜜のようにねっとりとした粘り気が混ざっていた。
麻衣を抱き寄せた。
『さ、セカンドハーフだ』
『サッカー?
野球のほうがよくないかしら?』
二、三度しばたたかせた目を細めて、圭司が訊き返した。
『いま、何回だ?』
『一回の表が終わったとこね』
目を丸くする圭司を見て、言葉の効果を楽しむように麻衣がクスクスと笑う。
その夜、数時間に及んで繰りひろげられた熱戦は、三回の表をむかえる前にコールドゲームとなった。
第七章 迷子