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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
 
第八章 セレンディピティー



花を散らした桜がみずみずしい若葉をまとったころ、圭司の仕事面での動静に変化があらわれはじめた。

圭司はこの春、以前に直接指名のあった大手玩具メーカーと正式な業務委託契約を取り交わした。
新商品の発売にあわせた撮影スケジュールが年間を通して組まれ、ミーティングにも定期的に参加することが条件となったが、一定の仕事量を確保できたのは今の圭司にとってありがたい出来事であった。
僥倖(ぎょうこう)をもたらした背景には、新年度の人事異動で、かねてから圭司の実力を評価していた宣伝部門のS氏の昇進人事があった。
部長昇進で販促業務にかかわる決裁権を得たS氏は、まだ契約金額を低く抑えられる無名の圭司を、今のうちに先物買いしておくのが得策と踏んだのだった。

それに加え、飛び入りの形で参加したフレデリックミシェルのメインカットが、ファッション雑誌はもちろんのこと、ウェブ、新聞、電車の車内吊りなど、あらゆる広告展開に使用され、予想以上の好評を得た。
なかでも、目抜き通りのブランド旗艦(きかん)店に掲げられた巨大なタペストリーは、街の景観を特徴づけるランドマークのひとつとして道行く人々の注目を浴び、広く認知されるところとなった。

圭司の撮ったカットが人目に触れるようになると、彼がブランド展開にかかわることになった奇遇や、気むずかしい白人デザイナーに一発オーケーさせたことが逸話となって、業界関係者の巷間(こうかん)でささやかれるようになり、出版社や広告代理店からの問い合わせがにわかに増えはじめた。



 
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