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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
 
そんな中、倉庫の家主である西島運輸の会長が圭司に電話を寄こしたことがあった。

『ものごとってのは、一瞬にして変わるんだな』

西島会長は開口一番にそう言い、圭司の受け答えを待たず上機嫌に話しつづけた。
夫人にせがまれてフレデリックミシェルの店舗へ行った際、圭司の撮ったメインカットがでかでかと掲げられているのを見て、涙が出るほど嬉しかったと、そのときの様子を楽しそうに話して聞かせ、俺の目に狂いはなかったなと遠まわしに圭司を賞賛したあと、『よく訊け』と声のトーンを変えた。

『お前の才能をよく思わない連中が、
 これからは出てくるってことだ。
 お前が高みにいけばいくほどな。

 人のねたみや勝手な思いこみってのは、
 お前ら若造には考えもつかない、
 想像を超えたことをやってくるもんだ。
 
 いいか、圭司。
 裏のあるヤツはみんな笑顔で近づく。
 それは、どの業界でも同じだ。
 絶対に忘れるな』

さとすように言うと、西島会長は声の調子をもどして快活に笑い、過去の家賃滞納は帳消しにする、と最後まで一方的にしゃべって電話を切った。

数々の修羅場をふんで事業を継続させてきた、いかにも企業人らしい西島会長の垂訓(すいくん)は、長年かわいがってきた圭司が、つまらないことで足もとをすくわれないようにとの思いが込められたものであった。

大きな波のうねりが、確かに圭司のすぐ近くまでやってきていた。
だが、当の本人に『キテる』という実感はなく、西島会長の言葉の意味が今ひとつつかめなかった。

圭司にとって、フレデリックミシェルの仕事は早苗を助けるためのものであって、決して評価を受けるための仕事ではなかった。
もしかすると、予定されていたカメラマンがもっと良い仕事したかもしれず、圭司は、そういった偶然や奇遇に、己の力だけではない「おまけ」乗っかっているような気がして、適正な評価を受けているとは感じていなかった。



 
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