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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
自らの才能に傲慢なまでの自信を持つフレデリックに、気付きを与えた写真家がいる――――。
ちまたの噂をフレデリック本人に裏書きされて確信を得た安藤佐和は、即刻、圭司との面談へと舵を切ったのだった。
慇懃(いんぎん)に名刺をさし出す圭司を上から下までながめた安藤佐和は、フレデリックがインタビューの最後に、『ただ、ケイジは君たちのコーディネイトが必要な男だよ』と評価に付け加えたのを思い出した。
初対面の安藤佐和がうつむいて笑みをこぼしたのを見て、圭司は、デニムに綿シャツを羽織っただけの自分の身なりが、出版社の格式にも安藤佐和にも不釣合いだったなと気づき、『あはは』と笑って頭をかいた。
初面談で安藤佐和は、夏発売のアッパーミドル向けグラフ誌でグラビアを撮らないかと圭司に持ちかけた。
近年、アパレル業界は低価格業態とファストファッションの台頭で、中流ミドルをターゲットにした被服メーカーは苦戦をしいられてきたのだが、読者アンケートで調査してみると、安かろう悪かろうの低品質被服にうんざりしている中年層が思いのほか多いことがわかった。
そこで、中流以上の比較的ゆとりのある層に向けて、良質なファッションと物品のグラフ誌を企画したのだという。
安藤佐和は意志のはっきりした眼差しを圭司へ向けた。
『文房の書架に並べても恥ずかしくない、
高いステータス意識を持った、
誌面づくりを目指しているんです。
私たちが良いと思うものしか扱いません』
その目を見て圭司は少し嬉しくなった。
『売価はどれぐらいで考えてるんですか?』
『千五百円前後、少なくとも
二千円までに収めたいと考えています』
圭司の質問にかぶせるようにして毅然(きぜん)と答えを返す安藤佐和に、圭司は微笑んで、
『その雑誌、きっと失敗しますよ。
是非、参加させてください』
と、彼女の申し出を快諾した。
『失敗するとわかってて、
受けてくださるんですね?』
少し厳しい表情で訊きかえした安藤佐和に、圭司はうなずいた。
『楽しそう、だからです。
俺にもやらせてください』
そう言って圭司は頭を下げた。