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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
近い将来すべてが電子化され、紙の本は姿を消すと予測している企業家もいるぐらい、雑誌を含めたほとんどの印刷媒体は危機的状況にある。
ネットの波に押されて年々購読者が減少している雑誌媒体への広告出稿を、企業は見直す時期にさしかかっている。
雑誌は、本体の販売収益よりも広告料収益で媒体運営を成り立たせるため、ライターは利害関係にしばられて思い切ったことが書けなくなる。
多少情報をゆがめてでも、広告主の意向にそう記事を書かなければならない。
そうして、スポンサーにおもねる軽薄さが誌面ににじみ出た広告バーター雑誌が、コンビニや書店の棚をにぎやかすのであるが、つまり雑誌媒体というものは、そもそも広告主の意向に逆らえない基本構造のうえにでき上がるものだ、と圭司は認識していた。
ところが安藤佐和は、編集部が良いと判断できないものは扱わないと言った。
なおかつ、雑誌の価格設定はスポンサー収入だけに偏らない、本体収益を採算の柱にしたものに思える。
無謀にもこの新雑誌の編集部は、広告主に媚びることなく自分達の意思を発信するつもりなのだ。
それを圭司は意気に感じた。
単純に協力したくなったのである。
『よく通りましたね。この企画。
相当の熱意がなきゃできないでしょう』
紙質をチェックするための見本誌をめくりながら圭司が言うと、
『起案の段階で
社内から猛反発を喰らいましたの』
安藤佐和は顔をあげてニコリと笑った。
二人は頭を突き合わせるようにして見本誌に集中していたので、顔を上げた安藤佐和の、間近にある涼しげな笑顔に、圭司は一瞬息をのんだ。
『贅沢を薦めるつもりはないんです。
本当に価値のあるものと、
そうでないものがあって、
今はそうでないものが、いかにもそれらしく
世の中を跋扈(ばっこ)してますわ』