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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
『いやぁ、しっかしうまいよなぁ。
酒が飲めるってのは素晴らしいことだよ。
で、圭ちゃん今日は何で誘ってくれたんだ?』
『いや、あのさ。
その……結婚しようかと、
……思うんだ』
『そうか! よかったなぁ。
本気でうれしいよ。
麻衣ちゃんなら、いい嫁さんになる』
渡瀬は一度のけぞったあと、早くも赤らみはじめた顔をクシャクシャにしてにんまりと笑った。
それから斜め上に視線をやって腕を組み、考えを巡らせて圭司を見た。
『俺と早苗は、どうなんだってことだな?』
圭司は黙ってうなずいた。
『そうだなぁ……何にも変わらんな』
腕組みしたまま、渡瀬はため息をついた。
圭司は口をつぐみ、八重歯に詰まった枝豆のかけらを舌先で追い出しながら、肩に首をあずける渡瀬を見つめた。
早苗への想いをあきらめさせてやった方が、渡瀬のためではないかという思いが一瞬よぎる。
『浩ちゃん、待つって言ったろ?
それって、早苗が不倫男を、
きれいさっぱり忘れるってことなんだよな?』
『うん、まずはそうだな』
圭司は気分が重くなった。
早苗の気持ちはすでに不倫男には向いていない。
自分に向いていることを自覚していながら、それを渡瀬に言えるはずもなかった。
『当たって砕けてみる気はないのか?』
圭司がそう訊いたところへ、店員がトマトスライスと牛すじ煮込みを割りこませてきたので、渡瀬はジョッキの底たまりを飲み干して、ビールのお代わりを註文した。
店員が行くと、渡瀬は笑顔をはずした。
『うん。それは……
できないな』
『どうしてだよ?』
『やっぱ、怖いんだよ。
早苗に断られんのが』
渡瀬は、また口をへの字にした。
それを見て圭司は、ふいにおかしくなってクスクスと笑った。