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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
 


施設内部のあらましを撮りおえた圭司は、ノートパソコンとカメラをつないで、あがりに問題がないことを確認した。
照明類をたたんで外へ出、施設全体を見渡せる場所から建物をながめた。
残るは建物の全景撮影だけとなったが、撮影ポイントを決めたものの建物の一部に陰がおちてどうにも見栄えが悪い。

『ちょっと待ってみるか』

雨の予報はない。
陰が移動するのを待つあいだに病院の敷地内を散策してみようと、プライベート用のメモリーカードに差しかえて中庭へむかった。
駐車場に入るまえ、中庭に見えた巨木が印象に残っていた。

人物撮影をパーソナルワークとする圭司が、好んで被写体に選ぶのは「老人」である。
ノミで彫りつけたような深いしわが、乾ききった肌にあらわれる老人特有の陰影の濃さ。
そこからにじみ出る骨太な現実感覚が、写真表現においてリアリズムの立場をとる圭司の表現欲をそそるのである。
作品集を世に出すことが圭司の夢であるが、そうした市井(しせい)の人たちの表情をカメラにおさめるのは彼の楽しみのひとつだった。


中庭に見えたのは巨大な樫の樹だった。
太くたくましい幹から放射状に枝を張りだし、天に向かって両手を広げる巨人のように、しっかりと地面に根をおろして立っている。

あたたかさに満ちた中庭で、巨木がつくる葉陰は自然に人を集めていた。
午前の講義を終えた医学生たちが休息をとり、脚にギブスを巻いた男とその家族らしき若い女性がベンチに腰かけている。
そこから視線をすべらせた先にいた、大きな樫を見あげる車椅子の年配女性に目が止まった。
うしろには車椅子に手をそえる若い看護師がいた。

散り落ちる黄金(こがね)色の木漏れ日が、きらきらと二人を輝かせている。
仲のよい親子が語らうような、二人のあいだにある優しげな雰囲気は、一幅の画となって圭司を惹きつけた。


 
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