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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
夕刻、玩具メーカーでの打ち合わせを終えた圭司は、ワゴンに乗りこむなりカーラジオのスイッチを入れた。
午前中、うららかに晴れていた空はどんよりと曇り、ひと雨きそうな気配があった。
ラジオの天気予報では今晩のうちに天気は崩れ、週末まで雨が続きそうだと告げている。
『あちゃぁ、明日から雨かぁ』
麻衣にはまだ相談していなかったが、週末には麻衣をつれて仲間の彫金師の工房へ行くつもりでいた。
そこでリングをデザインしたあと、麻衣の父親のもとへ出むく覚悟を決めていた。
好事は晴れた日のほうがいいという気がしたが、翌週からひと月ほど立てこんだスケジュールになる。
圭司はその前に気がかりを片づけておきたかった。
ずるずると先送りになれば、麻衣がつまらぬ不安を抱くであろうことが容易に想像できるからである。
携帯電話を手に実家の母へ事の次第を伝えようとして、圭司は考え直した。
その前に早苗に話さなければならない。
自分と麻衣の結婚話を、早苗はどんな気持ちで聞くだろうか。
想像を巡らせた圭司の脳裏に、皮肉な笑みを浮かべた早苗がありありと思い浮かんだ。
勝気な早苗のこと、おそらく『あらそう? おめでとう』なんてさらっと言ってのけるのだろう。
一年半前、早苗が倉庫にやって来たのは、不倫の傷心を清算するためだと思われたが、そうではなかった。
決して簡単ではない、早苗なりの覚悟をもって男所帯に飛びこんできたのだ。
それから一年がたち、突然あらわれた麻衣にたった三日で惚れた男を奪われるなど、早苗は露ほども予測していなかったに違いない。
だが、見かけ以上に早苗は情に厚い女だった。
そうでなければ半年前、自分たちの棲家に麻衣を歓迎することはない。