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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
あの雨の日、身の上を告白した麻衣に心を寄せ、真っ先に手を差し伸べたのは早苗だった。
それからは女性として麻衣の心情を汲み、ことあるごとに麻衣をサポートした。
気持ちを押し殺し、仲間の前では険悪な空気をつくらず、鬱憤(うっぷん)がたまれば酒と不倫男との自虐的な性行為でごまかし、自分自身を納得させてきた。
それは早苗でなければできないことだ。
¨優しい人間¨にしかできないことだ。
だからこそ、麻衣への感情は複雑だろう。
自分たちの結婚を、早苗が心底よろこべるわけがない……。
圭司は、ある種の哀れみを早苗に感じて、ひどくやるせない気持ちなった。
人は生きていくうえで誰しも矜持(きょうじ)を持つ。
自尊心や気高さに支えられ、ときには虚勢をはり、人としてどうにか生きていくことができる。
ところが誰かを本気で愛してしまうと、自分のプライドよりも愛した相手が大切になってしまう。
その想いが切実になればなるほど、拒絶されるという失敗を犯せないがゆえ、安易に愛の告白など怖ろしくてできなくなる。
早苗はまさにそうだったのだ。
振り出しに戻せない切羽詰った心情は、きっと早苗を臆病にさせただろう。
それでも早苗はつとめて明るく振る舞い、邪魔にならないように、あるいは厭(いと)わしく思われないように、一歩も二歩もひかえつつ、されども心を削って自分を愛してくれていた。
人並み以上の美貌と容姿を自覚していながら、その色香によって惑わそうとはしなかったのは、外見ではなく本当の自分を愛されたかったからだろう。
それほどまでに早苗の愛情は深刻で、真摯だった。