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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
レンガ造りの古い倉庫は、西島という圭司の幼なじみの所有物件であった。
代々、運輸業と倉庫業を家業とする西島家は港湾地区に多数の貸倉庫を所有していた。
社業のほとんどを若い息子に託し、会長職に退いた西島の父親は、アマチュアの写真コンクールで何度か入選したこともある大のカメラ好きで、写真に造詣(ぞうけい)が深い人物だった。
ある日、何気なく息子に見せられた圭司の作品にただならぬ才能を直感し、それに惚れこんだ西島会長は、写真家を目指すのなら食えるようになるまでが大変であろう、と休眠中の自社倉庫を破格値で圭司に貸し与えたのだった。
タダ同然の家賃で借りているにもかかわらず、駆け出しの圭司にはそれでも家賃が払えないことがあったが、西島会長はとやかく言わず、圭司の状況を察し、時には自宅に呼び出して食事させることもあった。
『お前には才能があるのだから』と常に激励し、写真を肴(さかな)に圭司と一杯やるのを何よりの楽しみとした。
『今もそうだけど、
その当時はずいぶんと
西島のオヤジに助けられたんだ。
おかげでなんとか生きてる』
圭司がここを棲家にすることになった経緯を聞いて、麻衣は、世間には太っ腹な人物がいるものだなぁと感心するのと同時に、そんな後援者や気の置けない仲間に恵まれる白石圭司の人柄にも、鷹揚(おうよう)でおおらかなものを感じた。
他者をむごく扱う者と、いたわる者があるとすれば、白石圭司を含め、彼にかかわる人間のほとんどが後者にあたるのではないかと、麻衣には思えた。