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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
 
そして、あらかじめ書かれた物語なるものは、陰鬱な心の残像が見せたこじつけであり、誰かが書いたシナリオのままに運命をたどるのではないと思えた。
たとえそれが善であれ悪であれ、その人が持つ役割をまっとうするまで、人は簡単に死ぬことはできない。

あの医師は、『生きるなら、役目を感じて生きろ』と言いたかったのだろう。
自分にふさわしい役割を見つけ、それを果たそうとあがくことが、つまるところ「能動的に生きる」ということではないか。
それはシナリオではない。
圭司はそう解釈した。

哀れみなのか、ただの暇つぶしだったのか、なぜ医師がわざわざ医局に招いて話してくれたのか判然としないままであったが、医師の言葉は思いのほか素直に、圭司の内部へ浸透していた。
その感触を、圭司は具体的にとらえることができていた。


『はぁ……』

自販機の前で、ため息まじりの失笑が圭司からこぼれた。
ミルクティを買うのに指を広げてみると、医師から受け取った小銭は十円玉が二枚、足りなかった。

『ったく、適当な人だな』

ポケットの中に硬貨を探っていた圭司の耳に、突然、『圭司さんっ』と甲高いエリの大声が突き刺さった。
圭司はびくりと震え、身をすくませた。

勢いよく振り向くと、長椅子の前には看護師らしき人影がうつむきかげんに立っていた。
視線を移すと、小走りに近づいてくるエリが見え、まなじりを下げたその表情が当惑でかげっているのがわかった。


 
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