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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
――――(あぁ、浩ちゃん……ダメか)
その瞬間、圭司は絶望を受け入れた。
何かが崩れ去るというよりも、強烈な睡魔に抱きすくめられるような意識の剥奪を感じたあと、自分でも不思議なほど自然に、超然とした心持ちが一瞬にしてできあがった。
ただそのとき、なぜか心に浮かんだのは、見たこともないICUのまぶしい天井だった。
息を荒くしたエリの両手が、圭司の袖をつかんで揺すった。
『さっき、
先生の意識が戻ったみたいなんです!』
『えっ』
圭司は、吸った息をつかのま吐くことができずにいた。
度を過ぎた感激は人から言葉を奪う。
エリが口にした言葉の意味を考え、首を突き出して、しばらくエリを凝視した。
『ほんと?』
やっとの思いで声を発した圭司に、涙ぐむエリは懸命に笑顔を作ろうとして、唇の端を震わせながら何度もうなずいた。
『あとで、
ガラス越しに様子を見せてくれるそうです』
『あぁ、よかったぁ……』
大きく息を吐いて目を閉じた圭司の脳裏に、上っ張りの裾をはためかせ、早足で廊下をゆく医師のうしろ姿が浮かんだ。
圭司はその背中に、ありがとう、と声をかけた。
第八章 セレンディピティー