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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
――――(いい雰囲気だなぁ)

純粋な感想だった。
釣り合いの取れた二人はとても自然で、つきあい始めの恋人同士にも、長年連れ添った熟年夫婦のようにも見える。
いかにも未来を想像させる二人のたたずまいを、麻衣は嫉妬をおぼえるよりもまず、うらやむ思いで眺めた。
自分はつまらない存在で、早苗が自分よりもはるかに上質な人間のように思えた。

ふと、そこに小さな子供をあてはめてみると、何の違和感もなくキッチンの二人は三人家族になった。
まとわりつく我が子を抱きあげる圭司と、それを見て微笑む早苗。
幸福に満ちた家族のあるべき姿がおぼろげに浮かぶ。

圭司に抱き上げられる子供が、昼間の直樹と重なった。
その瞬間、麻衣は絞り上げるような胸の痛みで硬く目をつむった。
それはときおり早苗に対して感じる、嫉妬がもたらす痛みとは性質の違うものであった。

体を起こした麻衣に圭司が気づき、そこにいたのか、というように眉を上げたあと、『ただいま』と微笑んだ。

『おかえりなさい』と言おうとした声が途中で裏返り、最後は息を吐くばかりになってしまった寝起きの麻衣を、圭司と早苗が笑った。

麻衣も自分の声がおかしくて、喉を押さえて笑うと目が潤んで涙がたまった。
これで、泣き腫らしたまぶたを少しはカムフラージュできるだろうと、かすれた自分の声を無理やりおかしがった。


 
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