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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
『ちょ、ちょっと待ってくれ。
麻衣、麻衣、ちょっと』
圭司は腰を引いて身を起こし、麻衣を制止した。
ようやく口をはずした麻衣の横顔を、常夜灯が薄く染めていた。
見上げた目には哀しみの色がにじんでいる。
息を整えた麻衣が力なくつぶやいた。
『私にできることは、
こんなことだけだもん……』
切実な声だった。
淫蕩(いんとう)にふけっていたのが嘘のように憔悴(しょうすい)している。
ああ、何かあったんだな、と圭司は察した。
『いいから、ほら。
こっちにおいで』
差し伸ばした腕に静かに身をゆだねる麻衣を、圭司は何も訊かず、ただ黙って抱きしめた。
麻衣の体が冷えているのを感じて、圭司はタオルケットで自分たちを包んだ。
ほどなくして、圭司の胸元を麻衣の涙がつたい落ちた。
涙の理由をたしかめることで、麻衣が笑顔を取り戻してくれそうな気配はない。
かりそめのなぐさめは、なぐさめられる者にとって石つぶての雨となることもある。
圭司は、肩を震わせて嗚咽する麻衣を抱きながら、涙の意味が何であるか、あえて推測したり質問したりせず、抱きしめた麻衣の髪にくちびるをあてた。
敏感な感受性が麻衣の内面に混沌を生み出したのだろう。
それが他人と決して融合できないものであったとしても、自分は麻衣の味方であらねばならない。
麻衣をいじめる何かがあるのだとしたら、それから守ってやらなくてはいけない。
とにかく、麻衣を悲しませる何かがあったのだ。
それがどんなことなのかわからないが、自分にはひとつだけ、はっきりとわかっていることがある。
麻衣は己の不遇を知る、悲しみと涙で彩られた女なのだ。