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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
とはいえ、三年前に死んだ妻に似ているから、あなたに興味があるなどというのは、ひたすら無礼な話だと思う。
『篠原さんを、侮辱することになるよ』
噛んでしめるようにひとりごち、タバコをふかした。
留美子が死んでから新たな女性と交わることもなく、躍起になって欲することもなかった。
日々の生活に追われ、それどころではなかったからだが、本当にそれだけの理由だったのだろうか。
自分はマジメな性格だろうが、融通のきかない偏屈でもないだろう。
かといって聖人君子ではない。歳相応の肉情がもたげることもある。
それなのに、風俗店へ駆けこむこともなく、性欲のはけ口としてでも女性を求める気にならなかった。
これはもしかすると、亡き妻との純潔を守りたいがために、そういったものから遠ざかろうとする意識が常に働いていたのではないだろうか。
再婚するなら直樹がもの心つく前にと、留美子の三回忌を過ぎたころからいくつかすすめられた縁談があったが、気乗りせずのらりくらりと断ってきたのも、そんな意識がどこかにあったからかもしれない。
母親の存在は直樹にとって大切だと思うが、とうの直樹は誰にも心を開かない。
同じように、自分も留美子以外に誰も愛せないのかもしれない。
『直樹も俺も不自由な性格だな』
灰が落ちそうになったのをきっかけに煙草を消した。
背もたれに体を預け、おもむろに手にした携帯電話をスクロールしてみる。
公園で撮った何枚かの写真のなかに、手をつないだ麻衣と直樹のうしろ姿があった。
その写真は、ごく自然に滝沢の頬をゆるませたが、ほのかな切なさも感じさせた。
忘却のために篠原麻衣を慕うのは、いけないことだろうか……。
そんな自分の心をかえりみながら、滝沢は、留美子に似た篠原麻衣という女性の余韻に、しばしひたった。