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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
渡瀬に薦められて開いた文庫本を二ページもめくらずに閉じ、麻衣はベッドの上であお向けに寝がえりをうった。
胸の内にたちこめる霧を払うようにため息をついたが、霧はどこへも行かなかった。
ゆうべも帰りの遅い圭司を待つことができず、リビングで寝落ちした。
圭司がそっと運んでくれたのだろう、朝はベッドで目を覚ましたが、圭司は早朝ロケですでにいなかった。
性の行為はなく、背中から抱きしめられていた感触だけを覚えている。
この一週間、麻衣は無気力で心の晴れない日々を過ごした。
何をするのも気乗りせず、面倒くささが先にたち、読書をしても文字を追うばかりで少しも頭に入らなかった。
テレビをつけていても、ただぼんやりと眺めているだけで、ふいにこみ上げる腹立たしさと、その息苦しさで胸がつまってくる。
無理に明るいことを考えても、甘い妄想の背後にはたえず劣等感がついてまわり、それらを断ち切る気力も湧いてこない。
鬱屈の殻に閉じ込められて身動きがとれなくなっている自分を情けなく思う。
こんなことをしていてはいけないという気持ちが、重くなった体を持ち上げようとするが、ではいったい何をするのかと質(ただ)したところで、何も思いつかない。
そうした出口の見えない堂々巡りをくりかえすうち、最後には自分への軽蔑を通りこして、純粋なあわれみを自分自身に感じてしまう。
『なんだか、なぁ……』
力のない声でつぶやいた麻衣の胸中に、うっとうしいものがたちこめてくる。
そのうっとうしさに中毒を起こしそうで、息継ぎのような深いため息をついた。