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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
リュックの中で携帯電話が鳴った。
瞬間、きりきりとルーレットがまわるような期待感が走った。
慌ててリュックをあけて携帯電話を手にした麻衣は、あっ、と声をあげ、すぐに手首の時計を見た。
電話は父からだった。
今月は母の十五回目の祥月(しょうげつ)で、麻衣の平日休みに合わせて休みを取ってくれた父と母の墓参を予定していたのに、その約束をすっかり忘れていた。
待ち合わせ時間はとうに過ぎている。
麻衣は、電話にでるなり父に謝った。
『あぁ、お父さんごめん、
うっかりしてた。すぐに出るわ』
《どうした、体の調子悪いのか?》
『ううん、違う。大丈夫よ』
《じゃ、お父さん待ってていいんだね?》
約束の時間を三十分も過ぎていたのに、父の声はのんびりとしたものだった。
『うん。
きょうは暑いでしょう?
どこか涼しいところで待ってて。
駅に着いたら電話するわ』
《慌てなくてもいいから、
気をつけて出てきなさい》
大慌てで仕度をして表に出た瞬間、日盛りの真っ白な陽射しが目をつむらせる。
やはり断ればよかったかなと後悔した。
気持ちの滅入った、きょうのような日に外出したくなかったが、遅刻した負い目から勢いすぐに出ると言ってしまった。
しかたない、と途方にくれた気分のまま、麻衣は、我が身を押し出すようにして駅へとバイクを走らせた。