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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所

湯煙にくもる鏡に、ふたりが映る。
麻衣は肥えた女ではなかったが、日本人的なふくよかさと、きめ細かな美しい肌をまとっていた。
早苗のものより大きな乳房は白く柔らかそうで、三年若いだけでこれほど肌の張りに差が出るものか、と早苗はすこし嫉妬した。
美人を自覚していた早苗だが、麻衣のような円(まど)かさは自分に持ち合わせないものだなと思った。
なによりも麻衣には愛らしさを感じる。
会ったばかりで麻衣のことを何も知らないはずの自分が、麻衣の物腰や態度に自然な可愛げを発見している。
圭司が麻衣を道端に捨て置けなかったのも、おそらくは同じものを感得したからだろう。
歪(いびつ)にならない可愛らしさや愛嬌というものは、その人の人間性が滲出(しんしゅつ)したものだ。
それは生涯にわたって、麻衣という人間を語るに欠かせないものとなるに違いない。
歳とともに廃(すた)れていく見かけの美しさなど、とるにたらないものだなと、ひがんでしまう自分を、早苗は心の中で笑った。
『麻衣ちゃん
ほんとキレイだね。
その男がバカだよ』
麻衣の背中を流し、少しでも早く麻衣がここでの生活に慣れることを願った。
風呂から上がると、ストーブの上のヤカンが湯気を昇らせていた。
早苗はソファに腰をおろし、ペットボトルの水をふくんで頭のタオルを巻きなおしながら、間仕切りがなくてわかりにくいが、ストーブを中心としたあたりが、この庵(いおり)のリビングスペースの扱いで、寝るとき以外、三人はほとんどこのソファで過ごすのだと言った。
麻衣は倉庫の中をうろうろと歩いてみた。
生活空間の人工的な明るさを、ほどよい厚みの暗闇が屋根裏から覆っている。
それがこの倉庫全体の安心感や落ちつきを生んでいるのだなと感じた。
一般家庭では壁際に配置される家電や家具が、ここではリビングをつくるための間仕切り代わりになっていて、冷蔵庫や液晶テレビが独立したオブジェのように据えられ、コンセントは全て床に配置されてある。
リビングから一段おりた壁際に、飲食店の厨房に据えてありそうな武骨なシンクが構えてあった。
大きくて使いやすそうだなと思った。

