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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 

『思わぬところでお会いましたね』

ハンカチで額の汗をふき、滝沢が笑った。
とてもいい口もとだなと麻衣は思った。
初めて見るスーツ姿の滝沢はいつも以上に精悍で、いかにも男という感じがして、その凛々しさが、家庭の匂いを封印しているようにも思えた。

『ほんとに。
 まさかこんなところでお会いするなんて。
 うちは母の墓参だったんです
 きょうは直樹クンは?』

『あぁ、えっと、何て言ったかな、
 篠原さんに戴いた髪の毛をたばねる、
 えっと、あれ……』

『シュシュ?』

『あぁそれです。
 直樹はそのシュシュのおかげで、
 勇気りんりん、
 保育所に行ってくれてます。
 あれがあると機嫌がいいんですよ』
 
公園で遊んだときに、何かあげるられるものはないかと、髪を束ねていた髪飾りを外して直樹にあげたのだった。
次からは飴でもガムでも、子供の喜びそうなものをリュックに入れておこうと反省していた。

『今度会うときは、
 もっといいもの用意しておきます』

と、微笑む麻衣に、滝沢は、いやいや、と胸元で小さく手を振って顔をほころばせた。
¨今度会うとき¨という言葉が、互いの胸のうちにほのかな幸福感をわかせた。
そして麻衣は、携帯電話が鳴ったときに感じたあの胸騒ぎは、もしかすると、いまこの時を期待したものではなかったかと思った。

『奥様は?』

麻衣は深い考えもなく訊いた。
こういうところへは家族が寄りあって来るのが普通のことだと思っていた。
滝沢は、ああ、と何かに気づいたように少し口をあけたあと、

『妻の墓参りなんです。
 まだお話ししてませんでしたね』

と言った。
麻衣は、え? と目を見開き、息を詰めた。
失言に気づき、とっさに表情をつくろったが適切な表情がわからなかった。

『彼岸や命日に行けないことが多くて、
 時間ができたときに来るようにしてるんです。
 私の実家が駅のすぐ向こうで……。
 ほんとに奇遇ですね』

滝沢の口ぶりや表情にあわただしさはなく、いかにもそういったことは訊かれ慣れているといったふうだった。


 
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