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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
不動のステータスを築き、出世街道をまっしぐらに進む、そんなデキ過ぎる女の心の中に息をついているのは、圭司であった。

圭司は早苗のすべてを変えた。
女の幸せというものが何であるか。
圭司に出会って、早苗は、これまでの自分の考えや生き方を根底からくつがえされた。

過酷な日程を調整して恩師を弔問(ちょうもん)したその帰り、居酒屋で紹介された白石圭司という人間に、早苗が最初に感じたのは、独特の「間」と「輪」だった。
誰もが好感を抱かずにはいられない、人としての在り方自体が春風のような男は、ただただ優しいというのではなく、子供をからかうような、どことなく大きさを感じる優しさで、相手を脅かさない頃合いの距離にいて、それでいて労わるような、どのような傷口でも柔らかく包むような、そういう丁度よい力加減を感じさせた。

早苗の圭司への興味はふくらみ続けた。
圭司が生み出す「間」と「輪」を自分から少し詰めてみたくなる。
独身女の身軽さで、軽トラック一台分の家財道具とともに倉庫へ移り住んだが、間も輪も詰めれば詰めるほど、なぜか切なさだけが早苗の胸のうちに増していった。

同居を始めてひと月がたった頃、海外出張先で早苗は強い欠乏感に見舞われ、ホームシックにおちいった。
そのとき初めて圭司への愛を自覚した。
離れて暮らすことなど考えられなくなるほど、女として、狂おしいまでに圭司を愛していることに気づいた。


 
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