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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
圭司を夫に据え、母として圭司の子を産み育てることのできる、これまで考えもしなかった家庭というものへの憧れが、生まれて初めて早苗の心の底から湧いて出た。
それ以外の人生など考えられなくなった。
自分の生き方を曲げてでも一緒に生きていきたい人間が圭司であり、圭司との生活を手に入れることができるのなら、迷わずにすべてを捨てることができると、早苗は、出張先のミラノのホテルで己の心を詳しく知ったのだった。
圭司への想いをダメでもともとなどとこれっぽっちも思えず、早苗は、つかんだ幸福のいとぐちを大切に扱った。
つのる想いを胸に秘め、つぼんだ花がひとひらずつ開くのを待つように、互いの距離が自然なものになるのを待ち続けた。
真に自分の中の女を覚醒させた圭司に運命を感じ、想いを時間に託したのだ。
それから一年が経ち、麻衣が現れ、早苗の恋はあっけなく終わった。
あまりにも理不尽だと、早苗は、道理にあわぬ無情に心を焼き尽くされた。
麻衣を恨みたくはなかった。
しかし、これまで愛情を積み重ねた分、麻衣に対して深刻なまでの憎悪を抱いた。
麻衣が圭司ともつ時間に、咬みついて食いちぎりたくなるような嫉妬をおぼえた。
指先で淫蕩(いんとう)に溺れようとも、短い期間に多くの男と寝ようとも、正気がなくなるまで酔おうとも、圭司への想いと己へのあわれみは増すばかりだった。
そんな嫉妬や恨み言を一口たりとも漏らさず、おくびにも出さなかったのは、かろうじて早苗にプライドが残されていたからだった。
だが、そのプライドも優越意識やおごりなどいっさい洗い流された、首の皮一枚つながっただけの、か弱いものだった。