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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
愛についての己の不器用さを認め、愛してはならないという覚えのある感覚になだめられ、圭司が幸せならそれでいいと思えるまでの長い時間は、早苗にとって辛く苦しい闘いの時間でもあった。
――――(これで、よかったのよ)
自問自答して紙コップの中に映る自分とにらみ合い、早苗は、飲みつぶれたあの夜に自分と圭司がとった行動を思い、溜飲(りゅういん)を下げた。
一歩間違えば自分もこうなっていただろうと、理性を失くした男女の悲惨なニュースに共感したのは一度や二度ではない。
あの夜の交感がなければ、飢えた心をなだめるために誰かと刺し違えるようなことを起こしたかもしれない。
あのとき、もし圭司に抱かれていたら、互いにもっと多くのものを失っていたに違いない。
いまにして思えば、自分がこうしていられるのは、圭司が偽りのない愛情で「間」を保ち、「輪」を作ってくれていたからこそだ。
望むものとは真逆のことになってしまったが、そんな誠実さを芯に立つ男だからこそ、自分は心底、圭司に惚れた。
これからのこと、縁あって港の倉庫につどった人たちの未来のためにも、あの夜の判断を決して間違いとしてはならない。
なぜならば、あのとき、ほんの一瞬、
自分たちは、世界でいちばん静かな恋をしたはずだから。