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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
翌朝、早苗をのぞいた三人が、圭司のポンコツワゴンで男のアパートに向かった。
幹線道路沿いに建つ小ぎれいなアパートの前には、すでに洋介とその元で働く若い大工が到着していた。
アパートに横づけしたトラックの荷台から、地下足袋(じかたび)を履いて作業服を着た、いかにも肉体労働を生業(なりわい)とする屈強そうな男が三人、圭司の車に手を振った。
『洋介、悪いな。
急なことで申し訳ない』
『いいよ。
次、どっかで呑ませてくれりゃ』
洋介は軍手をはめながら麻衣と目をあわせ、にこりと微笑んだ。
『たいへんだね』
『すみません。おせわになります』
一瞬たじろいでから、麻衣は深々と頭を下げた。
洋介の気さくな笑顔に、圭司と同じ種類の頼もしさを感じた。
カギをあけた部屋の中には、麻衣のものだけが残されていた。
男のものは昨夜までに運び出されたようだった。
衣装ケース、中途半端に引き出しの空いた洋服タンス、日に焼けたカーテン、家具の跡のついたカーペット、本棚には料理本と女性雑誌、看護関連のもの、それと育児書と絵本が残されている。
キッチン用品にはほとんど手が付けられていなかった。
柔弱(にゅうじゃく)なやさ男である渡瀬は、荷運びよりも荷造りに向いていて、洋介がホームセンターで買い占めてきてくれた段ボールを手際よく箱にした。
それに麻衣が小物を詰めていき、圭司らが部屋から運び出していく。
そんな一連のパターンができあがると、さほど時間もかからぬあいだに部屋の中の生活感は空疎(くうそ)なものとなった。