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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
元々男の借りていた部屋に麻衣が飛びこんだもので、荷物はたいした量ではなかったが、麻衣のものか男のものか判別に困ったのであろう、どこかの観光地で撮られた二人の写真が麻衣の衣装ケースの上に無造作に散らかしてあった。
それを集めてそっと胸にあてた麻衣を見て、圭司は錐(きり)で突かれたような痛みを胸におぼえた。
愛する男と蜜月を過ごし、甲斐がいしく愛をあたため、育て、麻衣は医師の妻となるはずだった。
夢はついえ、男は去り、いまは自分の荷物をまとめている。
子供ができないことは、決して小さな問題ではない。
だがしかし、
――――(男は、この子の何を愛したのだろう……)
圭司は心の中で何度もそう繰り返した。
ふいに、このアパートで夜ごと男に抱かれる麻衣の姿が頭をよぎった。
いらだちに似た気分の悪さは、嫉妬であった。
『ふん、妬いてる場合か』
そうつぶやいて、圭司は段ボール箱を抱えなおし、アパートの階段を降りた。
二時間もかからず部屋は空になった。
ドアの鍵を閉めた麻衣は、男から指示されたとおり扉の郵便受けに鍵を落とし入れ、
『これで、おしまいです』
と、無理に微笑んだ。
『お疲れさま』
圭司が麻衣の肩に手を添えると、麻衣は固く目をとじて頬に涙をつたわせた。
麻衣が涙をぬぐうのを待って、圭司は麻衣の頭を撫でた。
『さ、帰ろ』
過ぎた日はもう戻らない。
麻衣が食らった哀しみ、どこへもぶつけられぬ屈辱。
それらを思い出に変えてやろう、と心に決めたとき、
圭司は、麻衣に好意を抱く自分に気づいた。