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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
『結局私は嫁いだわ。
違和感はあった。
でも自分の決めた道だから、
私は私のためにきちんと
役目をまっとうしなければいけなかった。
そうでなければ、
結婚生活に後ずさりしてしまいそうだったの。
それに遅まきながらだったけど、
夫への愛情も確かに芽生えていたわ。
結婚して二年目の春だったかな。
実家の母が怪我をしたのね。
大雨の日に宅配便が届いて、
雨のなか配達員さんを待たせちゃ
気の毒だって急いだらしくて、
お玄関の敷居につまづいて転んだのよ。
母は手首とすねを骨折しちゃった。
ほんとドジでしょう?
ご両親が不自由するだろうから、
しばらく実家に帰ってあげなさいって
夫が言ってくれた。
それでしばらく里帰りしたのよ。
実家の私が使っていた部屋は、
私が嫁いだあと物置にされてたんだけど、
ベッドはそのままだったから、
慣れた自分の部屋で寝起きしていたの。
あるとき書庫の裏からアブラムシが出てきて、
キャーキャー大騒ぎ。
あちこち叩いて、やっつけたのね。
その格闘の拍子に
積んであった段ボール箱が崩れおちて、
中から手紙の束がこぼれ出てきたの。
何十通っていう
前の恋人からの手紙だった。
引き離されてすぐから、
ほんの半年前までの手紙よ……。
ぜぇーんぶ私の手前で
両親と家政婦さんに
せき止められてたのね。
一晩かけてすべて読んだわ。
愛の言葉と、
私からの返事がないことを悲しむ内容でうめられてた……』
佐和はそこまで話すと、何かをこらえるように、ぐっと唇をむすんだ。
おし黙った佐和の口元を見つめ、早苗は話の続きを待ったが、のぼせを感じた佐和が、『少し休憩しましょ』と、早苗の手の甲をぽんと叩いた。