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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
すみません、と声をかけ、圭司は自分がカメラマンであること、ここの新施設の撮影で出向いていることを説明し、手札サイズにまとめた自作の写真集を見せて、被写体になってもらえないかと願いでた。
『あら、素敵じゃないの。
いい写真ばかりねぇ……』
ほうほう、といった表情をときおりほころばせながら、年配女性は圭司の撮った写真にしばらく見入っていた。
ページをめくる彼女の指先や肌つやは年齢を感じさせたが、その言葉づかいと声の美しさには、どことなく気品がある。
じっくりと写真集に目を通したあと、年配女性は、お金はかからないのかと訊き、その心配がないとわかると背後の看護師に写真集を手渡した。
『麻衣さんもごらんなさい。
すごくキレイに撮れてる。
ねぇ麻衣さん、
一緒に撮ってもらわない?』
『そんな、私はいいです。
写真用のお化粧じゃないもの』
照れ笑いを浮かべながら写真集に目を通す、¨麻衣¨と呼ばれた看護師の胸には、¨篠原¨と名札が留めてあった。
瞳の大きい色白の看護師は、美人というのではなかったが、頬のふくらみが特徴的で清潔感があった。
『そんなこと言いなさんな。
プロの写真家にタダでとってもらえるのよ。
あなたはお見合い用に、
私は遺影に使えるわ』
年配女性は楽しげに笑って、麻衣という若い看護師に一緒に写してもらおうと誘い、圭司の名刺をじっと見て訊いた。
『ねぇ白石さん、
ここに写ってる皆さんは
元気にしておられるの?』
『ええ、皆さんお元気ですよ』
『どうしてわかるの?』
『モデルになって頂いた方には、
写真をお持ちするんです。
以降は年賀状やお手紙で
親しくさせてもらうことが多くて』
『へぇ、そうなの。
縁起がいいわね……』
圭司の態度や言葉づかいに真摯なものを見出した年配女性は、意を決したように『よし、じゃ撮ってもらおう』と、看護師の手を引いた。